伝わるよう探ること
大学美術教育学会副理事長 新井 浩 (福島大学)
令和2年度より大学美術教育学会副理事長を仰せつかっている新井浩と申します。専門分野は彫刻です。微力ではございますが、本学会の発展ならびに美術教育振興のため努めたく存じます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
大学に着任した当初より、美術教育が置かれている現状と存続に向けた方途を探る厳しさについて、危機感を持って教示してくださった先輩がいました。その危機感を共有して以来、私の課題の一つは美術教育の存在意義を、いかに相手に伝わるよう組み替えるかでした。それに拍車をかけたのは東日本大震災で、学会の講演会や分科会で質問や意見として自身の考えを打診し、応答の中で確かめていくことを自身に課しました。
2019年度本学会広島大会で、全米美術教育学会のロバート・セイボル博士による講演をお聴きした時に、自身の考えをまとめたメモがあります。
「大学美術教育学会の課題と展望を整理する上で、芸術家らしく個を立てることは学会の命題に照らして意味を持たない。全体を俯瞰し内外に溢れる課題を整理すれば、fine artからは問題提起力が、designからは問題解決力が、Art criticismからは多様性理解が導かれ、美術教育はそこに収斂することで課題に対応しうる。」
ここでは研究成果を、他分野の人にとっても共有できる枠組みに置き換えて提示する必要を述べています。もっともそれぞれの領域はグラデーションでつながっていて、補完し合うことでようやく現実社会に対応可能です。
本学会の設立において、ひとつは美術・芸術分野の分析と美術・芸術教育における学問の構築をめざすことにあります。美術教育の存在意義を語る上で、その礎となるのは学会での研究発表であることは言うまでもありません。
また、社会の動向や教育思潮を踏まえながら、日本社会並びに教育の場において重要な教科として位置づけることが趣旨に謳われています。ここに於いて、私たちは私たちが研究した成果、たとえばfine artを通して育まれる問題提起の力、design・craftの問題解決の力、Art
criticismの多様性を理解する力を私たち自身にもあてはめ、社会の動向や教育思潮を踏まえてアップデートし続け、美術教育の存在意義を相手に伝わるよう探り続けることが重要と考えます。
学会の課題は三学会連携、総務局体制、世代間継承等、様々ですが粘り強く対応しつつ、またオンラインでの大会開催など現状を打開するための新たな努力も必要です。前を向きましょう。
今年度ご担当いただく開催大学の皆様や総務局の皆様、発表に向け準備されている学会員の皆様のご尽力を謝するとともに、今後に資する大会となりますよう祈って挨拶と致します。