大学間共同教職課程と美術科免許
全国美術部門副代表 新関 伸也 (滋賀大学)
中央教育審議会から,令和3年1月に答申された「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」では,「Society5.0 時代」,「予測困難な時代」が到来する中で,2020
年代を通じて実現を目指す「令和の日本型学校教育」の在り方を「全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現」としている。これを受け中央教育審議会に文部科学大臣は「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について(令和3年3月12日)」を「①教師に求められる資質能力の再定義,②多様な専門性を有する質の高い教職員集団の在り方,③教員免許の在り方・教員免許更新制の抜本的な見直し,④教員養成大学・学部,教職大学院の機能強化・高度化,⑤教師を支える環境整備」の5点から諮問している。特に,我々が注視すべき点は,前記の③と④であろう。従来の制度では各教員養成大学・学部単位で中・高美術免許に必要な単位を出すことを前提に、また大学院設置による「絵画,彫刻,デザイン,工芸,美術理論・美術史」の5名の専門と教科教育の計7名が保証されていたが,もはや教職大学院1本化となり,この定員は崩壊した。特に地方の大学の教員採用の少ない音楽,美術,保健体育,技術,家庭などの実技教科では,退職教員の不補充が重なり,定員激減は甚だしい。課程認定下限3名の教科専門教員で、中高免許を非常勤講師に依存しながら何とか単位認定をしている大学も出でいる現状である。
このことは法人化以降の〈選択と集中〉の文部行政により予測はできたのだが,いよいよ複数の大学が教職課程を構築できる仕組みが創設(令和2年度に制度改正,令和3年度以降に制度を活用した課程の開始)された。いわゆる「大学等連携推進法人(仮称)」に参画する大学が,課程の科目や専任教員を共通化し,教職課程を構築することが可能となったのである。
この制度を先取るかたちで,四国の徳島,鳴門教育,香川,愛媛,高知の5国立大学が「一般社団法人四国地域大学ネットワーク機構」を立ち上げて,人口減少期の教員養成モデルを目指す「連携教職課程」を令和5年度に開設する予定である。この法人認定により,授業科目を共同開設し,5大学で1つの教職課程を備えることを目的としている。この機構設立の背景には,少子高齢化が進み,四国各県で,特に教員採用数が少ない音楽,美術,保健体育,技術,家庭の実技系5教科の教員免許を取得できない状況を避けるねらいがある。学生がオンラインを活用し,四国の他大学の多様な専門性のある教員に学びつつ,単独の大学では難しい集団実技も検討しているという。
この四国の大学ネットワーク機構による中学校美術科等の免許取得の仕組みは,やがて四国だけでなく全国に拡大するに違いない。一方でこの共同教職課程による免許取得の仕組みは大学ごとの中学校免許全教科維持の原則が崩れたことも意味している。
美術部門でも先行の四国地区会と連携しつつ,近々に授業開設を巡る具体的な方法などの情報を共有する必要があるだろう。昨今コロナ禍の中で,オンライン授業が定着し,ICTによるネットワークを活用した大学間共同教育が,さらに加速されるであろう。